東京高等裁判所 昭和45年(ネ)3024号 判決
(二)(ロ) 控訴人は、仮りに、控訴人、被控訴人間に控訴人主張の合意がなかったとしても、黙示の承諾があったとし、黙示の承諾も認められないとしても、控訴人のなした交換は緊急事務管理にあたるから控訴人には責任はないと主張する。(中略)綜合すると、被控訴人は発電機、モーター、回転機等を製造販売する会社であり、控訴人は、被控訴人と代理店契約を締結し、被控訴人の製品を販売していたこと、被控訴人は昭和三八年暮頃から経営不振となり、労働争議が激しく会社の正常な運営が期待できないような状態にあり、争議も未解決のまま越年の状勢で製品の出荷が労働組合によって阻止されるおそれがあったのでこれを回避するため、被控訴人は控訴人に本件アークラインの保管を委託するに至ったこと(被控訴人が控訴人に本件アークラインの保管を委託したことは争いがない)、被控訴人は昭和三九年三月末不渡手形を出して倒産し、同年八月五日破産宣告を受けるに至ったこと(昭和三九年八月五日被控訴人が破産宣告を受けたことは争いがない)が認められる。しかし、右認定のごとき事実があったからといって、控訴人が主張するように、交換につき被控訴人の黙示の承諾があったということはできない。次に、控訴人が本件六台のアークラインを処分した昭和三九年五、六月当時右アークラインの卸値は時価の二割程度まで値下りしていたことは後記認定のとおりであり、また当審証人岩本竜二の証言によればその後さらに二年間も放置すればその価格はスクラップ価格にも等しいものに値下りしたであろうことが認められるが、かゝる事実に前段認定のような各事実を考慮してみてもいまだもって控訴人がその処分の当時これを被控訴人に謀ることなく自からの判断で行うことを余儀なくされる程事態が切迫し「財産に対する急迫の危害を免れしめる為」という緊急事務管理の要件が具備されていたものとは認め難く、結局控訴人主張の黙示の承諾ないし緊急事務管理の抗弁も理由がない。
(三) そうすると、控訴人の被控訴人に対するアークライン一八〇型六台の返還債務は、控訴人の前記交換処分により債務者たる控訴人の責に帰すべき事由により履行不能となったものというべく、控訴人は被控訴人に対し右債務不履行による損害を賠償すべき義務がある。ところで、本件アークラインの寄託については返還の時期の定めがなかったことは当事者間に争いがないところ、本件のように履行期前に履行不能となった場合の填補賠償請求において、その損害額算定の基準時については説の分かれるところであるが、履行期前に履行不能が確定的となったときは特別の事情のない限り、そのとき本来の債権が損害賠償請求権に変るのであるからこのときを標準とし、履行不能を生じた当時における本件アークラインの価格によるべきものと解する(昭和三五年一二月一五日最高裁判決、民集一四巻一四号三〇六〇頁参照)。よって、本件寄託物の履行不能を生じた昭和三九年五、六月頃の価格についてみるに、右当時被控訴会社が既に倒産していたことは先に認定したとおりであり、当審証人岩本竜二の証言によると、本件のごとき倒産した会社の製品は、部品の供給もつかないし、アフターサービスも全然期待できないほか他社による市場攪乱などの要因が重なり、結局メーカーから問屋へ出す値段の約二割程度であることが認められ、本件アークライン一八〇型の寄託当時の価格は一台につき金三一五、〇〇〇円であったことは原審証人丹羽甲子蔵の証言により認められるから、本件アークラインの返還が履行不能となった昭和三九年五、六月頃の時価は一台につき金六三、〇〇〇円の六台分合計金三七八、〇〇〇円と認定するのが相当で、控訴人は被控訴人に対し右金額の損害賠償義務を負ったものというべきである
(菅野 渡辺 小池)